「役員賞与(事前確定届出給与)の否認リスクって本当にそんなに怖いの?」というテーマで、よくある不安と、その回避方法を整理していきます。
ただ、以下の内容は今までの判例や一般的な税理士の通例というもとでの話で、確定、確約した内容ではありません。
「顧問税理士から“否認リスクがあるからやめておきましょう”と言われて、やりたくても諦めている」という声も少なくありません。
一方で、きちんと仕組みを理解して運用すれば、役員賞与を経費に落としつつ、自分の手取りも増やしていける強力な制度でもあります。
この記事では、
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事前確定届出給与の基本の仕組み
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よく言われる「否認リスク」の正体
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法人税+所得税のダブルパンチを避ける具体的な方法
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実務で使えるQ&A
などの内容をもとに整理していきます。
1. 事前確定届出給与とは? ― 普通は経費にならない役員賞与を経費にできる特例
まず前提として、役員賞与(役員に対するボーナス)は、原則として法人の経費になりません。
そこで登場するのが「事前確定届出給与」という特例です。
事前確定届出給与のポイント
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誰に・いつ・いくら支払うか をあらかじめ決めて
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株主総会等で決議し
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その内容を 税務署に「事前確定届出」として提出 することで
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その役員賞与を損金(経費)として認めてもらえる
という仕組みです。
例えば、
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役員報酬:毎月100万円
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事前確定届出給与:11月24日に1,000万円支給
のように、「普段の役員報酬」とは別枠でボーナスを設定できます。
よくある疑問が、
「毎月100万円なのに、ボーナス1,000万円ってさすがに多すぎて否認されませんか?」
というものですが、
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毎月10万円の役員が1億円の賞与を受けても通ったケースがある
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そう考えると、100万円と1,000万円は「普通の範囲」
そのような流れで金額の大小だけで否認されるケースはほぼ聞かない、というのが通例です。
2. 提出期限が超重要 ― 「決算確定日から1か月以内」
事前確定届出給与には、かなりシビアな提出期限があります。
提出期限:決算確定日から1か月以内
ここでポイントになるのが「決算確定日」です。
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決算期:11月決算の会社
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法人税の申告期限:翌年1月末(1月31日頃)
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その前に株主総会を開き、「この決算でOK」という承認を得る
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この「株主総会で決算が承認された日」が 決算確定日
例えば:
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決算確定日:1月26日
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→ 事前確定届出給与の提出期限:2月26日
となります。
よく「期首から3か月以内」とざっくり言われたりしますが、正確には
「法人税の申告書右下に書く『決算確定日』から1か月以内」
ここを勘違いすると、せっかくの届出が期限切れで無効になってしまうので要注意です。
3. なぜ「否認リスク」が騒がれるのか?
法人税+所得税のダブルパンチのイメージ
顧問税理士からよく言われるのが、
「事前確定届出給与は否認リスクがあるから危ないですよ」
という話。その背景には、「ダブルパンチ課税」の懸念があります。
想定されている怖いシナリオ
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事前確定届出で
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11月24日に
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1,000万円の役員賞与を支払う
と税務署に届け出る
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実務では
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思ったより資金繰りが厳しくなり
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1,000万円を支払えない
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すると税務署が、
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「本来は1,000万円を支払うと決めていたのだから、支払ったものとみなして所得税を課す」
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一方で会社側は、実際に払っていないから
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法人税計算上は損金にしない(できない)
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結果として、
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法人税:利益1,000万円に対して課税
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所得税:もらっていない1,000万円に課税
→ ダブルパンチ
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という最悪パターンが理論上はあり得る、という話です。
これが「否認リスク」として語られることが多いのですが、
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実際にそのようなダブルパンチが行われた事例は見たことがない
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税務の情報誌・判例などでも大きく取り上げられていない
というスタンスのようです。
4. ダブルパンチを避ける「株主総会での辞退」
じゃあ、もし本当に支払えなくなったらどうするのか?
実務的な解決策は、シンプルに言うと:
支払日(例:11月24日)の直前に、株主総会で「その賞与を辞退する」決議をする
という方法です。
手順イメージ
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事前確定届出給与として
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「11月24日に1,000万円を支払う」と決議&届出済み
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ところが、いざ11月が近づいてみると
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事業がうまくいかず
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資金的に1,000万円を用意できない
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支払日より前に 臨時株主総会を開催
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議題:
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「予定していた役員賞与1,000万円について、役員本人が辞退する」
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株主総会議事録を残す
これにより、
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会社側:1,000万円を支払っていないので、損金算入も発生しない
→ 法人税は、利益1,000万円に対して普通に発生(ここは諦める) -
個人側:賞与を辞退しているので、所得税はかからない
という形になります。
ポイント
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ダブルパンチを避けるには、
「支払日より前」に正式な手続き(株主総会+議事録)で辞退を決めておくこと。 -
一人会社であっても、
自分一人で株主総会を開き、議事録を残すのが大事(形式ですが超重要)。
この手続きをきちんとしておけば、
「届出したからといって、絶対に支払わないといけない」
→ ではなく
「どうしても払えないときは、事前に辞退するという逃げ道がある」
という設計にできます。
5. 「役員報酬の全額否認」って現実的なの?
一例としたあったとされる事例を紹介した顧問税理士は、
「賞与を取り下げたら、過去1年分の役員報酬(毎月100万円×12か月=1,200万円)も全額否認される可能性がある」
という説明をしていたそうです。
このロジックだと:
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役員報酬1,200万円が経費から全額外される
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利益がさらに1,200万円増え、そこにも法人税がかかる
という、かなり過激な「超ダブルパンチ」になります。
一般的な見解では、
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そうした**「役員報酬1年分丸ごと否認」の事例は聞いたことがない**
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税務業界向けの専門誌でも見かけない
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もし本当にあれば、かなり大きなトピックになっているはず
実務的には、
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「本当にそのような事例があるなら、判例や通達・記事などの根拠を見せてもらうべき」
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根拠が示されないまま「とにかく危ない」とだけ言われるなら、
セカンドオピニオンを検討してもよいのでは
という問題提起もされています。
6. よくあるQ&A
Q1. 事前確定届出給与の提出期限はいつ?
A. 決算確定日から1か月以内です。
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例:11月決算の会社
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決算確定日(株主総会で決算承認した日)が1月26日なら
→ 1月26日が提出期限
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「期首から3か月以内」ではなく、決算確定日から1か月以内なので注意。
Q2. 届け出たのに支払えなかったらどうなる?
A. 何もしないと、理論上は法人税+所得税のダブルパンチのリスクがあります。
ただし、実務的には株主総会で事前に「辞退」を決議することで回避できます。
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辞退の決議をせずに未払いだと、
税務署から「支払ったものとみなして個人に所得税課税」という指摘を受けるリスクが指摘されます。 -
それを避けるために、支払日前に株主総会で辞退を決議し、議事録を残すのが安全策です。
Q3. 1,000万円の事前確定届出給与って否認されない?
A. 金額が大きいという理由だけで否認されるケースは、基本的には想定しにくい、とされています。
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毎月10万円の役員が1億円の賞与をとっても通った例がある、といった話もある。
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「仮に毎月100万円に対してボーナス1,000万円」というものでも、数字的には“普通の範囲内” という位置づけです。
Q4. 支払えないとき、どう処理するのがベター?
A. 支払日前に、株主総会で「その役員賞与を辞退する」決議をし、議事録を残す。
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これにより、
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会社:1,000万円を支払っていない → 損金にもならないが、法人税は利益に対してだけ
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個人:賞与を受け取っていない → 所得税は発生しない
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ダブルパンチを避けつつ、「払えないなら払わない」という選択肢を安全に使えるようにする手続きです。
まとめ:事前確定届出給与は「使い方を知っていれば武器になる」
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事前確定届出給与は、
本来経費にならない役員賞与を損金算入できる、かなり強力な制度です。 -
一方で、「否認リスク」や「ダブルパンチ課税」の話だけが強調され、
実際には使われていない会社も多いのが現状です。 -
しかし、
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提出期限(決算確定日から1か月以内)を守る
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支払えない可能性が出てきたら、支払日前に株主総会で辞退を決議し、議事録を残す
というポイントさえ押さえておけば、
過度に恐れる必要はないのでは? というのが、一般的な税理士の見解のようです。
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「うちの会社でも使えるかな?」
「顧問税理士から“危ない”と言われて止めていたけど、本当にそうなのか知りたい」
という場合は、
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「事前確定届出給与を利用したい」
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「支払えない場合はこの手順で辞退したい」
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「その際の判例や根拠も一緒に確認したい」
といった形で、一度じっくり相談してみると良さそうです。