はじめに:南海トラフ巨大地震は「歴史上何度も起きている」
南海トラフ巨大地震は、日本列島の南側・太平洋沿いでプレート同士がずれ動くことで発生する M8〜9クラスの超巨大地震 です。
地震学の研究や政府の長期評価によると、南海トラフ沿いでは今後30年以内に巨大地震が発生する確率は およそ80%前後 とされています。
今回684年〜1946年 にかけて南海トラフ周辺で起きた巨大地震の主な記録が整理。
この記事ではその内容を分析し、分かりやすくまとめつつ、
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どんな地震が、どのあたりで、どれくらいの間隔で起きてきたのか
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歴史から見える「要注意の地域」や「押さえておきたいポイント」
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これから私たちが意識しておきたい備え方
を整理していきます。
1. 歴史に残る南海トラフ巨大地震の主な一覧
684年 柏浦(白鳳)地震(M8.25)
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記録上、最古の南海トラフ巨大地震
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震源域:四国沖〜紀伊半島付近
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記録からは、東海地方まで影響していた可能性 も指摘されています
887年 仁和地震(動画中では「人が地震」)(M8.25)
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震源域:静岡県付近〜四国沖までの広範囲
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東海〜近畿〜四国にわたる、典型的な「広域型・南海トラフ巨大地震」
1096年 永長(えいちょう)地震(M8.0〜8.5)
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震源域:駿河湾〜紀伊半島沖(南海トラフ東側)
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東海寄りのセグメントが主に動いたと考えられています
1099年 康和(こうわ)地震(M8.0〜8.3)
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永長地震の 2年2か月後 に発生
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震源域:紀伊半島〜四国沖(南海トラフ西側)
→ 東側 → 西側と、数年ずらして連続発生 したパターン
1361年 「小平東海地震」「小平南海地震」
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小平東海地震
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M不明
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震源域:静岡〜三重沖(東側)
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小平南海地震
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M8.25〜8.5
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小平東海地震の2日後、もしくは同時発生とされる
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震源域:紀伊半島〜四国沖(西側)
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東西が ほぼ同時・あるいは短時間差で動いた「連動型」 とみられています
1498年 明応(みょうおう)地震(M8.2〜8.4)
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震源域:東海地方〜高知県中部沖
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非常に広い範囲が震源となり、南海トラフ全体に近い規模だったと考えられています
1605年 慶長地震(※南海トラフかどうか議論あり)
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津波被害は非常に大きかった一方で、京都や奈良での揺れの記録が少ないことなどから
発生場所が南海トラフとは限らない とされ、現在も詳しい場所は不明
1707年 宝永(ほうえい)地震(M8.6〜9.0説)
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M8.6とされつつ、M9クラスの可能性 も指摘
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震源域:東海〜四国沖、一部は日向灘(宮崎沖)まで達した可能性
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富士山の宝永噴火との関係も語られる、歴史上最大級の南海トラフ地震
1854年 安政東海地震・安政南海地震(ともにM8.4)
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安政東海地震(東側)
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震源域:静岡県〜三重沖
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安政南海地震(西側)
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安政東海地震の 約32時間後 に発生
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震源域:紀伊半島〜四国沖
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東西が 1日ちょっとの間隔で「ペア」で起きた典型例
1944年 昭和東南海地震(M7.9)
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震源域:静岡県西部〜三重沖
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現代に近い時代の大地震で、記録や被害も詳細に残っています
1946年 昭和南海地震(M8.0)
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昭和東南海地震の 2年後 に発生
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震源域:紀伊半島〜高知県中部沖
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20世紀に起きた最後の「南海地震」であり、
1946年以降、南海トラフ沿いではM8クラスの巨大地震は発生していません。
2. 歴史から見える「発生パターン」と「発生間隔」
2-1. 東西がセットで動く「連動型」と、時間差で起きる「分割型」
上記の記録を眺めると、南海トラフの巨大地震には大きく2パターンあります。
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連動型(ほぼ同時 or 数十時間差)
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1361年 小平東海+小平南海
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1854年 安政東海+安政南海(約32時間差)
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時間差型(数年〜数十年ずらして発生)
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1096年 永長 → 1099年 康和(約2年差)
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1944年 昭和東南海 → 1946年 昭和南海(2年差)
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つまり、
「1回大きなのが来たから、これで南海トラフはしばらく静かになる」
とは限らず、
“片側が動いたあとに、数時間〜数年おいてもう片側が動く” という歴史的パターンが何度も確認されています。
2-2. 発生間隔は「おおむね100〜150年」だがバラつき大
大まかな間隔を並べてみると:
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684 → 887年:約203年
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887 → 1096年:約209年
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1099 → 1361年:約262年
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1361 → 1498年:約137年
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1498 → 1707年:約209年
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1707 → 1854年:約147年
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1854 → 1944年:約90年
ざっくり 90〜260年の間隔 で発生しており、
平均すれば「100〜150年おきくらい」と言えますが、ブレがかなり大きいのが特徴です。
日本政府の長期評価では、
2013年時点で「今後30年以内に南海トラフ巨大地震が起きる確率は60〜70%」とされ、
2018年には70〜80%、2025年時点ではおおむね80%前後とされています。
「何年周期だから、あと○年は大丈夫」という考え方は危険で、
“いつ起きてもおかしくないので、平時から備えておく” というスタンスが重要です。
3. 注意すべき地域:どのエリアが特にリスクが高いか?
歴史的な震源域と、最近の政府の情報から見て、
特に注意が必要なエリア は次の通りです。
3-1. 過去の震源域から見た「中核エリア」
南海トラフ巨大地震の震源域として何度も登場しているのは、
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駿河湾〜遠州灘(静岡県沿岸)
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三河湾〜伊勢湾〜三重県沖(愛知〜三重・紀伊半島東側)
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紀伊半島南岸(和歌山県)〜熊野灘
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四国太平洋側(徳島・高知・愛媛南部)
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日向灘周辺(宮崎県沖)※宝永地震などで可能性
つまり陸上で言うと、
静岡〜愛知〜三重〜和歌山〜徳島〜高知〜愛媛南部〜宮崎など
太平洋沿岸の低地・湾岸部
は、強い揺れ+大きな津波の両方に要注意 なエリアと言えます。
3-2. 政府が「強い揺れ・3m超の津波リスク」として指定した範囲
2024年の「日向灘地震(2024年のM7級地震)」発生後、
気象庁は「南海トラフ地震に関する臨時情報(調査中)」を発表し、
南海トラフの巨大地震が起きた場合に強い揺れや3m超の津波が想定されるエリア として、
29都府県707市町村 を対象に注意喚起を行いました。
そこには例えば、
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横浜市
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静岡・浜松
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名古屋
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京都・大阪・神戸
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岡山・広島
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四国4県すべて
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宮崎県の多く
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一部の沖縄地域
なども含まれています。
つまり、
「震源に近い太平洋沿岸だけでなく、
内陸や瀬戸内海側・大都市圏も“強い揺れ”の影響を受ける可能性がある」
ことが、国の想定からも読み取れます。
4. 歴史から読み取れる「注意ポイント」
4-1. 「1回で終わり」と思わないこと
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安政地震(1854年)や昭和地震(1944・46年)のように、
東側と西側が時間差で動くパターン は何度も起きています。 -
大きな地震のあとも、「もう片側が動くかもしれない」 という意識を持って、
情報収集や備えを続けることが大切です。
4-2. 津波は「揺れが収まってから来る」ので、迷わず高台へ
過去の南海トラフ地震では、津波が甚大な被害を出してきました。
特に、
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河口・湾奥の低地(川沿いの市街地、埋立地)
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漁港・港湾エリア
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海抜の低い住宅地
などは、わずかな高低差で被害が大きく変わる ことが知られています。
「長く強い揺れ」や「揺れのあとにすぐ津波警報・注意報」が出たら、
“迷う前に高台へ移動” を基本行動にしておくのが重要です。
4-3. 「南海トラフだから太平洋側だけ」と思い込まない
政府が想定する南海トラフ巨大地震のシナリオでは、
内陸の大都市圏(名古屋・大阪・京都・神戸など)も震度6弱〜6強クラスの揺れ が想定されるケースがあります。
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沿岸部でなくても、
家具の転倒・老朽建物の倒壊・火災・ライフライン途絶 などのリスクは十分にあります。 -
「津波は来ないから安心」ではなく、
揺れとその後のライフライン障害にどう備えるか が重要です。
5. 個人レベルでできる「実践的な備え」
最後に、こうした歴史とリスクを前提に、
今からできる現実的な備えを簡単にまとめます。
5-1. まずは「自分の地域の想定」を知る
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お住まいの自治体の
ハザードマップ(地震・津波・液状化など) を確認 -
想定される
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最大震度
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津波の高さ
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浸水範囲
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最寄りの 避難ビル・高台 の位置とルートも一緒に確認しておく
5-2. 家族・職場ごとの「避難ルール」を決めておく
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家族がバラバラな時間帯(通勤・通学中)を前提に、
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津波が想定される地域なら「揺れたら各自最寄りの高台に直行」
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集合場所・連絡手段(LINE/安否確認サービスなど)を決めておく
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職場の避難訓練も、南海トラフ級を意識してイメージしておくと◎
5-3. 最低3日〜1週間分の備蓄
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飲料水(1人1日3L目安)
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レトルト・缶詰・カップ麺などの非常食
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モバイルバッテリー・乾電池
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簡易トイレ・ウェットティッシュ
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常備薬・メガネ・コンタクトなど
特に南海トラフ級では、広域で同時多発的に被害 が出ることが想定されているため、
「3日分」では足りないという専門家の指摘もあります。可能であれば 1週間分程度 を目標にすると安心度が上がります。
1854年の地震と昭和期の地震の違い、そして「80年経っても安心ではない」理由
ここまで見てきた通り、南海トラフ巨大地震は、
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東側(東海〜東南海)
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西側(南海)
がセットで発生する場合と、時間差で分かれて起きる場合があります。
この点は、1854年(安政)ペアと1944・1946年(昭和)ペアを比べるとイメージしやすくなります。
1854年:東西ほぼ「同時発生型」(安政東海 + 安政南海)
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1854年 安政東海地震:M8.4、静岡〜三重沖(南海トラフの東側)
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その32時間後に
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1854年 安政南海地震:M8.4、紀伊半島〜四国沖(南海トラフの西側)
わずか32時間差という超短い間隔で、
南海トラフの東側と西側が**ほぼ「一体の出来事」**として動いたと考えられています。
→ このパターンは、
**「一気に全域が連動した巨大イベント」**に近いタイプと見なされます。
昭和期:数年ずらして起こった「時間差分割型」
一方で昭和の一連の地震は、もう少し「間」をあけて発生しました。
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1944年 昭和東南海地震:M7.9
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静岡西部〜三重沖(東側寄り)
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2年後の1946年 昭和南海地震:M8.0
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紀伊半島〜高知沖(西側)
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1854年のようにほぼ同時ではなく、2年という時間差をあけて
南海トラフの東側 → 西側の順に大地震が起きたパターンです。
このため昭和のケースは、
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南海トラフ全体が**一気に破壊された「1回」**というよりも
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「2回に分けて大きく滑った」シリーズ
として扱われています。
とはいえ、1944・1946年のペアも、広い意味では「一連の南海トラフ巨大地震」グループと考えられており、
決して「南海トラフとは関係ない別物」ではありません。
「1946年からまだ80年だから大丈夫」ではない理由
よくある感覚として、
「前回の昭和南海地震(1946年)から、
まだ80年くらいしか経ってないし、
200〜300年周期なら、まだ少し余裕があるのでは?」
というイメージを持ちがちですが、ここにはいくつか注意点があります。
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周期はあくまで「目安」であって、カレンダーのようにピッタリではない
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南海トラフ巨大地震の再来間隔は、過去の例を見ると
約90年〜260年程度とかなりバラつきがあります。 -
つまり「○年は絶対来ない」という安全ゾーンは存在しないと考えるべきです。
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昭和の一連の地震が「完全にエネルギーを解放しきった」とは限らない
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プレート境界は一様な板ではなく、
「よく滑る場所」「あまり滑っていない場所」が混ざっています。 -
1944年・1946年で動いた範囲と、
その後もひずみがたまり続けている可能性のある範囲をどう評価するかは、
いまの地震学でも研究が続いているテーマです。
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「次は東海〜東南海側が別タイミングで動く」可能性も否定できない
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1854年はほぼ同時、
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昭和期は2年差というように、
「分割発生」パターンも歴史的に何度も起きています。 -
そのため将来も、
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東海・東南海側と南海側が一発で連動するのか
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あるいは時間差で複数回に分かれるのか
は断定できません。
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80年という時間は「長くも短くもない微妙な位置」
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南海トラフの歴史スパン(1300年以上)で見ると、
80年は決して「十分に長いインターバル」とは言えません。 -
むしろ
「いつ起きてもおかしくないから、
今から備えておくべき期間に入っている」
と考える専門家も多いです。
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このように、
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**1854年(安政)**は「ほぼ同時連動型」、
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**1944・1946年(昭和)**は「数年ずれた分割型」、
という違いはあるものの、どちらも南海トラフ巨大地震グループの一員であり、
「昭和に起きたから、しばらく安全」とは決して言えません。
だからこそ、
「明日来てもおかしくない」つもりで備えを進めつつ、
過去の記録から傾向やリスクを冷静に学ぶことが大切だと言えます。
まとめ
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南海トラフ巨大地震は、684年から何度も繰り返し発生 しており、
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連動型(東西ほぼ同時)
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時間差型(数時間〜数年差)
の両方のパターンが歴史に残っています。
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特に注意すべきなのは、
静岡〜紀伊半島〜四国〜宮崎にかけての太平洋沿岸部 と、
内陸の大都市圏(名古屋・大阪・京都・神戸など) の強い揺れです。 -
発生間隔は一定ではなく、
政府の評価でも「今後30年でおおむね80%」とされるなど、
“いつ起きてもおかしくない”前提で備えるべき段階 にあります。
「怖がるために歴史を見る」のではなく、
“どこが危なそうか” “何を準備しておくべきか” を具体的にイメージする材料 として、
こうした過去の地震記録をうまく活用していきたいですね。