1. そもそも何が変わったのか
今回の改正は物価高対策の意味合いもあり、
2025年1月に遡って年末調整・2026年3月の確定申告に反映されます。
主な変更点は次のとおりです。
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各種書類(申告書)の様式変更
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所得の計算方法が変わる
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基礎控除の金額が人によって変動制に
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「扶養に入れる範囲」が変わる ←今回の記事のメイン
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「特定親族特別控除」(主に19〜22歳向け)の新設
この中でも特に影響が大きいのが、
④扶養の範囲が変わったことです。
2. 「103万円の壁」が壊れた理由
これまでの「103万円の壁」には、実は2つの意味がありました。
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本人の所得税が0になるライン
→ 年収103万円以下なら所得税ゼロ(いわゆる「免税点」) -
扶養の範囲内におさまるライン
→ 親・夫など扶養する側が配偶者控除・扶養控除を受けられるライン
つまり、
「103万円以下=所得税ゼロ=扶養に入っていられる」
というシンプルな公式が長年成り立っていたわけです。
ところが今回の改正で、
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所得税の免税ラインは大幅に緩和
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しかし 扶養の範囲は少ししか拡げなかった
ため、
「所得税ゼロ」と「扶養に入れる」が別々のラインになってしまいました。
3. パート・アルバイトの場合(給与収入)
3-1. 所得税と住民税がゼロになるライン
配偶者・扶養家族・学生がパートやバイトで働くケースです。
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所得税:
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160万円以下なら所得税ゼロ
(配偶者・扶養家族・特定親族特別控除の学生いずれも)
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住民税:
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地域差はありますが、大都市を例にすると
→ 110万円以下なら住民税もゼロ
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以前は、所得税と住民税の免税ラインは**ほぼ同じ(差は数万円)**でしたが、
改正後は
所得税:160万円
住民税:110万円
と、50万円もの差が生じています。
住民税の方が税率(10%)が高いため、
「税金完全ゼロ」で考えると 110万円 が1つの目安になります。
3-2. 「扶養に入れるか」のライン
ここからが今回の最大のややこしさです。
配偶者の場合(夫が会社員、妻がパートなど)
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配偶者が扶養に入れる上限(満額控除)
→ 年収123万円以下 -
しかし「配偶者特別控除」があり、
年収 160万円以下 までは
夫側に段階的に配偶者控除が残ります
(38万 → 36万 → 31万 → 26万 …と減っていく“壁でなく坂”の仕組み)。
つまり配偶者の場合は、
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所得税ゼロ:160万円以下
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夫が何らかの控除を受けられる:〜201万6000円まで減額しながら継続
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「扶養家族としてフルに扱える」のは:123万円まで
という構造になっています。
3-3. 学生(19〜22歳)の場合
いわゆる**「学生優遇」**です。
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扶養控除が満額(63万円)受けられる上限:
→ 年収150万円まで -
150万円を超えると
親の控除額が少しずつ下がり、
123万円相当までなだらかに減額されます。
ここでいう「学生」は厳密には
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12月31日時点で19〜22歳の人
であり、必ずしも在学中とは限りません(逆に18歳や23歳の学生は対象外)。
4. 基礎控除と「扶養58万円の壁」
今回の混乱の根っこには、基礎控除の考え方があります。
4-1. 基礎控除の仕組み
基礎控除とは、誰にでも認められる「最低限の生活費」のような控除で、
以前は一律 48万円 でした。
改正後は、年収に応じて
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95万円
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85万円
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68万円
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63万円
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58万円
…と変動する仕組みになりました。
ただし法律上の「本体」は58万円で、
そこに上乗せして95万円などになっているイメージです。
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海外居住者などは基礎控除 58万円 のみ
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給与年収約200万円超の人は、
2027年以降は再び58万円に戻ると決まっています。
4-2. 扶養判定に使われるのは「58万円」
扶養に入れるかどうかの判断には、
この**「本来の基礎控除58万円」**が使われます。
たとえば給与の場合:
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給与所得控除:一律 65万円
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本来の基礎控除:58万円
→ 58万 + 65万 = 123万円
これが、
**「扶養家族としていられる年収上限123万円」**の正体です。
つまり、
年収160万円のパート
→ 給与所得控除65万を引くと所得95万円
→ 基礎控除95万円があるので 所得税は0しかし扶養判定では
「合計所得58万円まで」のルールが使われる
→ 95万円は58万円を大きく超えるため
扶養には入れない
というねじれが起きます。
これが動画で言うところの
**「扶養58万円の壁」**です。
5. フリーランス・自営業の場合
ここからは、配偶者・扶養家族がフリーランス/自営業/Uber配達員などで働くケースです。
5-1. 所得税・住民税の免税ライン
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所得税ゼロ
→ 事業収入 − 経費 = 合計所得95万円以下 -
住民税ゼロ
→ こちらは改正がなく、従来どおり
→ 合計所得45万円前後(自治体により差)
5-2. 扶養判定ライン
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配偶者の扶養判定の基準:
→ 合計所得 58万円(本来の基礎控除額) -
ただし配偶者には「配偶者特別控除」があるため、
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合計所得95万円(=収入200万−経費105万など)までは
満額38万円の配偶者控除相当 -
そこから 133万円まで 減額されながら控除が続く
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一般の扶養家族の場合:
→ 合計所得 58万円までが扶養範囲 -
19〜22歳の「特定親族特別控除」の対象者は
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85万円まで満額63万円控除
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その後123万円まで、控除額が徐々に減る
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5-3. 典型例
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事業収入200万円・経費140万円
→ 合計所得60万円
→ 所得税は基礎控除95万円があるので 0
→ しかし扶養判定は58万円が基準のため、
あと2万円経費があれば扶養に入れたのに入れない
という“惜しい”ケースもあり得ます。
6. シニア(年金生活者)の場合
65歳以上で年金収入がある場合です。
6-1. 税金のライン
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所得税ゼロ:
→ 年金収入205万円以下 -
住民税発生ライン:
→ 年金収入155万円前後
ここでも所得税と住民税で差が出ています。
6-2. 扶養に入るライン
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配偶者として扶養に入りたい場合
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本来の基準は年金収入 168万円 だが、
配偶者特別控除により 205万円まで満額控除
→ そこから徐々に控除額が減る
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子どもの扶養に入りたい場合(親を扶養に入れる)
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年金収入 168万円まで が扶養の範囲
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70歳以上の場合は、
扶養控除額が満額48万円にアップします。 -
健康保険の扶養(社会保険)に入りたい場合は
→ 年収180万円未満が一つの目安(「180万円の壁」)。
7. 実務で特に意識したいポイント
7-1. 「扶養58万円の壁」を理解する
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税金面(所得税)だけを見ると
「かなり減税されている」「年収の壁は緩くなった」ように見えます。 -
しかし、扶養判定では58万円ベースで考えられているため、
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所得税ゼロでも扶養から外れる
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合計所得が少しオーバーしただけで扶養扱いにならない
といったケースが出やすくなります。
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7-2. 社会保険の壁も別で存在
配偶者・扶養家族が給与で働く場合は、
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106万円の壁(従業員規模が大きい会社の社保加入)
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130万円の壁(夫や親の社保から外れ、自分で国保+国年へ)
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健康保険の扶養180万円の壁(シニア等)
といった**「社会保険の壁」**も非常に重要です。
「税金だけ見て年収を決める」のではなく、
税金(所得税・住民税)+扶養判定+社会保険をセットで考えることが必須になります。
まとめ
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2025年から、年収の壁の考え方が大きく変わりました。
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所得税の免税ラインは大きく引き上げられましたが、
扶養のラインは「本来の基礎控除58万円」をベースにしているため、-
「所得税ゼロだけど扶養には入れない」
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「壁ではなく、控除が徐々に減っていく“坂”」
といった複雑な状況になっています。
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とくに
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パート・アルバイト主婦
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学生(19〜22歳)
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フリーランス・自営業
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シニアの年金生活者
は、それぞれラインが違うので要注意です。
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今後も「年収の壁」まわりは議論が続きそうです。
自分や家族の働き方を決めるときは、
所得税がかかるかどうか
扶養に入っていられるかどうか
社会保険の加入条件を満たすかどうか
この3つを必ずセットで確認するようにしておくと、
思わぬ「壁」にはまりにくくなります。