2026年1月1日施行「取引適正化法(取適法)」とは?運送業・下請け企業が押さえるべき改正ポイント6つをわかりやすく解説

はじめに:2026年から“下請け法”が大きく変わる

2025年5月に成立した改正法により、
「下請代金支払遅延等防止法(いわゆる下請法)」は、2026年1月1日から新しく「中小受発注取引適正化法(通称:取適法)」として施行されます。

狙いはシンプルで、

  • 中小企業・フリーランスを含むサプライチェーン全体で
    “適正な価格転嫁”を進める
  • 不利な条件を押し付けられがちな事業者を守り、
    公正な取引環境をつくる

ことです。

この記事では、動画の内容をもとに、

  • そもそも取適法とは何か
  • 2026年1月から何がどう変わるのか
  • 発注側・受注側は何を準備しておくべきか

できるだけかみ砕いてまとめます。


取適法とは?従来の「下請法」との関係

旧:下請法

正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」。
親事業者と下請事業者の力関係の差を是正するために、

  • 代金の支払い遅延の禁止
  • 不当な値引き(買いたたき)の禁止
  • 不当な返品の禁止

などを定めてきた法律です。

新:中小受発注取引適正化法(取適法)

今回の改正で、

  • 名称が**「中小受発注取引適正化法」**に変更
  • 「親事業者/下請事業者」という言葉も
    委託事業者/中小受注事業者」と整理

され、イメージとしても「強い側・弱い側」というより
“取引を適正にしましょう”という方向に軸足が移ります。


なぜ改正されたのか?背景にある3つの流れ

  1. 原材料・エネルギー価格の高騰
    仕入れコストが急上昇しているのに、販売価格に十分転嫁できない。
  2. 賃上げ圧力と人手不足
    給与を上げたいが、元となる利益が出ない。
    価格転嫁ができないと、賃上げも投資も進まない。
  3. 「下請け法逃れ」の存在
    資本金を操作したり、取引スキームを工夫して、
    法律の適用外に逃げるケースが指摘されていた。

こうした問題を解決するため、

サプライチェーン全体で“構造的に”価格転嫁を進める

ことを目指して、今回の大改正に至っています。


改正ポイント①:運送委託も法律の対象に(特定運送委託)

一番大きな変更のひとつが、「運送委託」が明確に対象に入ったことです。

これまで

  • 製造や情報制作の委託は下請法の対象だったが、
  • 運送事業者間の取引は対象外とされることが多く、
    契約にない荷待ち・積み込み・仕分けなどが**“無償サービス化”**しやすい状況でした。

これから

  • 商品の販売・製造・修理・情報成果物の作成に伴う
    「顧客への運送」を他社に委託する取引
    「特定運送委託」として取適法の対象になります。
  • 運送そのものの対価に加え、
    荷待ち・積み込み・仕分けなどの作業も、
    きちんとお金を払うべきもの
    と位置づけられます。

物流業・メーカー・EC事業者などは、運送契約の見直しが必須です。


改正ポイント②:従業員基準の新設で「法逃れ」を防止

これまで、法律の適用対象かどうかは資本金だけで判断されていました。

  • 資本金を意図的に減らして「親事業者に該当しない」ようにする
    いわゆる**「下請法逃れ」**が問題に。

これから

資本金基準に加えて、従業員数の基準が導入されます。

  • 「3億円基準」の取引
    → 従業員数 300人超 vs 300人以下
  • 「5,000万円基準」の取引
    → 従業員数 100人超 vs 100人以下

どちらか一方(資本金/従業員数)でも条件を満たせば
取適法の対象になります。

「資本金は小さいが実態は大企業」という会社も
しっかり規制の枠内に入るイメージです。


改正ポイント③:手形払いの禁止と支払い方法の見直し

中小企業を一番苦しめてきたのが手形サイトの長期化です。

  • 手形割引の金利負担
  • 現金化までのタイムラグによる資金繰り不安

を解消するため、改正後は、

原則

  • 手形払いは禁止
  • 支払いは
    • 現金振込
    • 電子記録債権 など
      支払期日までに代金の“全額”が現金化できる方法に限られます。

ポイント

  • 電子記録債権や一括決済方式を使う場合も、
    手数料は原則として発注側が負担
  • 受注側が一時的に負担する場合は、
    期日前までにその分を返す(補填する)ことが必要です。
  • 期日までに全額現金を受け取れない形は
    「支払い遅延」とみなされ違反になります。

改正ポイント④:一方的な代金決定の禁止(交渉プロセスを規制)

これまでは主に「価格水準」が問題にされてきましたが、
今回からは**“決め方”そのものにもメスが入ります。**

何がダメになるのか?

  • 受注側が値上げを要望しているのに
    協議の場を設けない・回答を先延ばしにする
  • 具体的な説明や根拠資料の提示をせずに、
    「従来通りの価格で」と一方的に決める
  • 不当に細かい情報開示を求め、
    開示しないと交渉に応じない

などは、「協議に応じない一方的な代金決定」として禁止行為になります。

価格交渉は“やったことにしておく”のではなく、
双方が納得できるプロセスを踏んだかが問われる時代に変わります。


改正ポイント⑤:代金減額と遅延利息のルール強化

1. 不当な代金減額の禁止強化

  • 受注側に責任がないのに
    「協賛金」「歩引き」「一律◯%値引き」などの名目で
    発注後に代金を減らす行為は従来通り禁止。

2. 遅延利息の対象が拡大

これまでは「支払いが遅れた場合」だけでしたが、
今後は不当な代金減額についても

  • 減額された金額に対して
    年14.6%の遅延利息を支払う義務が発生します。

厚生取引委員会などが減額行為を認定した場合、
利息分も含めて支払いを求められる可能性があります。


改正ポイント⑥:面的執行の強化(複数省庁によるチェック)

これまでは主に

  • 厚生取引委員会
  • 中小企業庁

が中心でしたが、今後は

  • 各業界を所管する省庁(国交省・経産省など)も
    取適法に基づき指導・助言ができる

ようになります。

さらに、

  • これらの機関同士で違反情報を共有
  • 必要に応じて勧告・企業名公表

といった対応がとられます。

実務的には「どこか一つに相談すれば、
関係機関にも情報が回る」イメージです。


取適法の適用対象となる取引

① 取引の内容

代表的には次の5類型です。

  1. 製造委託
    資材・部品の製造、金型・木型・ジグ等の製造委託も含む
  2. 修理委託
  3. 情報成果物作成委託
    プログラム、デザイン、映像・音声、文書など
  4. 役務提供委託
    清掃・警備・ビルメンテナンス・倉庫保管など
    (建設工事は建設業法で別途規制)
  5. 特定運送委託(新設)
    商品や成果物を顧客に届けるための運送

② 規模要件(資本金基準+従業員基準)

  • 委託事業者(発注側)と中小受注事業者(受注側)の
    資本金・従業員数の組み合わせで対象かどうか判定します。
  • 同じ2社間でも、
    「A社→B社への製造委託」と
    「B社→A社への情報制作委託」で
    一方は委託事業者/一方は中小受注事業者というふうに
    立場が入れ替わることもあります。

委託事業者(発注側)に課される4つの義務

  1. 発注内容を明示する義務(4条明示)
    • 発注時に、数量・単価・支払期日などの事項を
      書面または電磁的方法(メール・EDI・SNSのDM等)で明示。
  2. 取引記録を作成・保存する義務(7条記録)
    • 取引が完了したら記録を作成し、2年間保存
  3. 支払期日を定める義務
    • 検査の有無に関わらず、受領日から60日以内
      できるだけ短い期日を支払い期日として定めること。
  4. 遅延利息を支払う義務
    • 支払いが期日を過ぎた場合、
      未払い額に対して年14.6%の利息を上乗せ。

禁止行為の代表例(抜粋)

11種類ありますが、特に押さえておきたいのは次のあたりです。

  • 受領拒否・返品の乱用
  • 代金の支払い遅延・手形払い
  • 不当な代金減額(歩引き・協賛金名目など)
  • 買いたたき(相場より著しく低い価格設定)
  • 購入・利用の強制(指定ソフトや機材の押し売り)
  • 不当なやり直し・仕様変更
  • 不当な経済上の利益の提供要請(無償作業の強要など)
  • 報復措置(違反申告をした取引先への不利益取り扱い)
  • 協議に応じない一方的な代金決定(新設)

企業は何を準備すべきか:発注側・受注側それぞれの視点

発注側(委託事業者)

  • 契約書・発注書・検収フローを
    改正内容に合わせて総点検
  • 支払い方法を
    手形→振込・電子記録債権等へ切り替え
  • 価格交渉の記録(やり取りのメール等)を
    残す仕組みを整える
  • 運送委託の契約に、
    荷待ち・積み込み・仕分けの対価を明記

受注側(中小企業・フリーランス等)

  • 自社が取適法の**「中小受注事業者」に該当するか**を確認
    (取引先の資本金・従業員数も含めて)
  • 不当な条件だと感じる取引があれば、
    価格交渉と、その記録の保存を意識する
  • 代金減額や支払い遅延があった場合、
    遅延利息請求の可能性も視野に入れる
  • 困ったときは、
    公正取引委員会・中小企業庁・業界所管省庁の相談窓口を活用

よくある質問Q&A(要点整理)

Q. 改正の施行日はいつから?
A. 2026年1月1日からです。その日以降に発注される取引に新ルールが適用されます。

Q. 手形払いはいつからNG?
A. 2026年1月1日以降に発注される取引について、
 手形払いは禁止されます。支払い方法の見直しは早めがおすすめです。

Q. 従業員基準のカウント方法は?
A. 労基法上の賃金台帳に記載される「常時使用する従業員数」が目安です。
 人事部門と連携して、自社・取引先の人数を定期的に確認しておきましょう。


まとめ:2026年の取適法は「価格交渉のやり方」まで問われる時代のスタート

今回の改正で、取適法は

  • 対象取引が広がり(特定運送委託)
  • 適用対象となる企業も増え(従業員基準)
  • 支払い方法と価格決定プロセスが厳しくチェックされる

法律へとアップデートされます。

特に、

  • 物流に関わる企業
  • 多数の外注先・下請け先を抱えるメーカー・IT・建設関連
  • 発注側からの値下げ要請に悩んでいる中小企業・フリーランス

にとっては、業務フロー・契約・支払い実務を見直す大きなタイミングです。