2025年5月14日に、労働安全衛生法などの改正が公布されされ、原則として2026年4月1日から施行されます
今回の改正は「ちょっとした修正」ではなく、企業の安全衛生体制そのものを見直すレベルの内容です。
ざっくり言うと、
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個人事業主・フリーランスも含めた安全衛生
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メンタルヘルス(ストレスチェック)の本格義務化
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化学物質による健康障害防止の強化
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機械・設備に関わる労災防止
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高齢者の労働災害防止
という 5つの柱 で、企業の義務が一段階引き上げられます。
この記事では、それぞれのポイントと、企業が今のうちに準備しておきたいことを整理します。
1. 個人事業者・フリーランスにも安全衛生対策が拡大
1-1. これまでとの違い
従来、労働安全衛生法は「労働者」を前提にした法律でした。
しかし最近は、現場に
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正社員・派遣社員
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請負業者
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フリーランス・一人親方
など、いろいろな立場の人が混在しているのが一般的です。
今回の改正では、こういった 個人事業者・フリーランスも “作業従事者” として安全衛生の対象に含める ことが明確になりました。
1-2. 企業側に求められること
注文者・元請企業は、現場で働く人が社員かフリーランスかにかかわらず、
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混在作業による災害防止対策をとる
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必要に応じて、安全衛生教育を受けさせる
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労災が起きた場合に、厚労省からの調査・報告要請に応じる
といった対応が求められます。
ポイント
「うちは外注だから関係ない」はもう通用しない。
現場で一緒に作業する人は、全員まとめて安全衛生の対象、という発想が必要です。
2. 職場のメンタルヘルス対策が“本気の義務”へ
2-1. ストレスチェック義務化の範囲が拡大
現在、ストレスチェックは「原則50人以上の事業場が義務、50人未満は努力義務」です。
改正後は、
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50人未満の事業場にも、ストレスチェック義務が広がる方向
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2025年5月の公布から「3年以内」に具体的な施行日が決まる予定
(準備期間はあるものの、先送りは危険)
つまり、中小企業・小規模事業所も例外ではなくなる ということです。
2-2. なぜここまでメンタルヘルスが重視されるのか
弁護士や社労士の現場感としても、
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休職・復職トラブル
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ハラスメントとメンタル不調の連動
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安全配慮義務違反をめぐる訴訟
など、メンタルヘルスが企業リスクの「ど真ん中」に来ています。
ストレスチェックをきちんと回せば、
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不調の早期発見
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組織のストレス要因の見える化
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将来の紛争リスクの低減
といった “予防” の効果 が期待できます。
2-3. 企業がやっておきたいこと
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顧問社労士・産業医・弁護士と連携し、
自社に合ったストレスチェック体制を設計 -
小規模事業所についても、
「いつから・どこで・誰に委託するか」を今のうちに検討 -
結果の活用ルール(面談・職場改善・情報管理)を整理
3. 化学物質による健康障害防止がさらに強化
研究所・工場・倉庫・クリーニング・印刷業など、
化学物質を扱う職場では特に重要な改正です。
3-1. 主な改正ポイント
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危険性・有害性情報の通知義務に罰則
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化学物質を譲渡・提供する側は、SDSなどで危険性情報を通知しなければならず、
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通知を怠った場合には 罰則 が適用される。
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営業秘密の場合の「代替化学名」通知を容認
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成分名が営業秘密のときは、リスクの低い物質に限り、代替名称での通知を認める。
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ただし、人体への作用や応急措置など、安全上必要な情報は隠せない。
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個人ばく露測定を「作業環境測定」の一部として位置づけ
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作業環境測定機関による適切な測定・評価を義務づけ、
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現場のリスクを数値としてきちんと把握することが求められる。
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(具体的な施行日は、それぞれ段階的に 2026〜2027年ごろを予定)
3-2. 準備の方向性
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使用している化学物質の洗い出し
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SDS の更新・管理方法の見直し
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作業環境測定・個人ばく露測定の体制づくり
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取引先(化学物質の供給元)との情報連携
4. 機械・設備による労働災害防止の強化
プレス機械、ボイラ、クレーンなど、
重大事故につながりやすい機械を扱う企業向けの改正です。
4-1. 民間登録機関の活用拡大
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ボイラやクレーン等に関する 設計審査・製造時検査 について、
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国だけでなく、登録された民間機関でも実施できる範囲を拡大。
これにより、
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企業はより柔軟に検査を受けられるようになる一方で、
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登録機関・検査業者には厳格な基準と順守義務が課されます。
4-2. 企業に求められること
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使用している機械・設備が、どの検査・許可の対象なのか整理
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登録機関の選定や、検査スケジュールの管理
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機械更新時に、設計段階から安全基準を満たしているか確認
5. 高齢者の労働災害防止が“努力義務”に
定年後再雇用やシニア雇用が増えるなか、
高齢者の労災が増えている ことが社会問題になっています。
5-1. 何が変わるのか
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高年齢労働者の災害防止のため、
事業者が必要な措置を講じることが 努力義務 として明文化 -
国が、高齢者向け安全対策の 指針を公表 する予定
現時点では努力義務ですが、
「将来的には法的義務になるのでは?」
と見る専門家も多い分野です。
5-2. 具体的な対策の例
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足元・段差・階段など、転倒リスクの高い場所の見直し
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重量物運搬・高所作業の見直しや補助機器の導入
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作業時間・休憩の取り方の工夫
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健康状態に応じた業務配分、健康診断の強化
6. 企業が今からやっておくべき3つのこと
最後に、今回の改正を踏まえて 「明日から何を始めるか」 を整理します。
① 現状把握とギャップ分析
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自社の安全衛生体制を棚卸し
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個人事業者・フリーランスとの関わり方
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メンタルヘルス・ストレスチェックの運用状況
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化学物質・機械設備・高齢者雇用の実態
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改正法で求められる水準とのギャップを洗い出す
② 専門家との連携
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顧問社労士・産業医・弁護士などと連携し、
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規程改定
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教育・研修
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相談窓口の設置
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トラブル時のフロー作り
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特にメンタルヘルスは、安全配慮義務違反・損害賠償 に直結しやすい分野なので優先度高めで。
③ 「安全に安心して働ける職場」を経営テーマに
今回の改正の根底には、
「多様な人が、安全・安心に働き続けられる職場をつくる」
という大きな方向性があります。
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外注・フリーランス
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若手・中堅
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高齢者
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メンタル不調を抱える人 など
さまざまな人材がいるからこそ、
安全衛生は“コスト”ではなく“投資” と捉えた方が、長期的には企業価値の向上につながります。
まとめ
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2025年5月公布の労働安全衛生法改正は、
個人事業者・メンタルヘルス・化学物質・機械・高齢者 の5分野で企業の義務を強化。 -
多くの条文が、数年の準備期間をおいて段階的に施行される予定。
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特に、
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小規模事業場へのストレスチェック義務化
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個人事業者を含めた安全衛生対策
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高齢者労働の安全配慮
は、企業経営に大きな影響を与えるテーマです。
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今のうちに情報を整理し、専門家と相談しながら、
「安全でメンタルにも配慮された職場づくり」 を進めていくことが、
改正法対応と企業の成長を両立させる近道と言えそうです。